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JJY(40kHz)のAirspyによる受信 (4)

前回からかなり時間が空いてしまいましたが、JJY(40kHz)を自作の回路で受信しようという試みを続けています。

今回は初段の増幅にオペアンプを使用してみました。 結果、前回紹介した2SK241 + 同調回路負荷ほどではないにせよ、使えることが分かりました。

課題は、信号の選択です。

オペアンプを使うことの目的

一言で言うならば「2SK241がもう廃品種で、より汎用的(かつ将来に亘って入手可能)な部品で作りたいから」です。

2SK241は内部でカスケード接続されたMOSFETであり、NFが低くゲインがそこそこある(あと寄生容量が比較的小さい?)というとても使いやすい石です。 データシート上はFMチューナー・VHF増幅用となっていますが、より低い中波・短波帯でも盛んに用いられています。

マチュアにとっては「困ったらこれ」というくらい定番のMOSFETですが、既にかなり前に廃品種になっています。 また、カスケード接続という点が問題なのでしょうか、互換性のある石があまり多くなく、それらも軒並み入手が難しくなっている印象があります。

さて、じゃあどうするかですが、よくよく考えれば40kHzはオーディオ帯域(~20kHz)の2倍程度なので、オーディオ用のオペアンプが十分使えるはずです。 このオーディオ用のオペアンプならば、受信の際に気になるノイズ面や、歪率、混変調歪などの特性もある程度気にされていて、そんなに悪いことはないと期待できます。 また、そもそもオペアンプならば、廃品種になっても代替のICも多そうです。

オペアンプを選ぶ

まずは欲張らずに、40kHzの信号を電圧利得20倍(26dB)することを考えます。
ただ、初段増幅で、前段にはLC同調回路を接続します。 そのため、入力インピーダンス(コモンモード)は十分高いことが必要と思います(50Ωとかではダメ)。

ここでは、手元に在庫があったのでLME49720を使いました(秋月電子通商で購入。今は1回路品のLME49710が売られているみたいですが…)。
ハイ・スペックなオーディオ用オペアンプで、ノイズと歪がかなり小さいと思います。

主なスペック

指標 今回必要な値 データシート値
パッケージ 8 DIP(ブレッドボードで扱いたい) 8 DIP
電源電圧 5V ±2.5~±17V
GB積 > 0.04MHz×20 = 0.8MHz 55MHz
電圧ノイズ密度 - 2.7nV/√Hz
THD+N - 0.00003%
出力インピーダンス 50Ω ~13Ω
入力インピーダンス(コモンモード) 1MΩ 1000MΩ

(参考)入力インピーダンスのコモン・モードとディファレンシャル・モードの違い https://www.analog.com/media/en/training-seminars/tutorials/MT-040.pdf

回路を考える

反転増幅か非反転増幅か

まず、初段増幅ということで、多重帰還型などのフィルタ回路にはしません(本当はあったほうが良いのですが、帯域を調整しつつ入力インピーダンスも合わせる術を私が持っていないため…)。

その上で、オペアンプの単純な増幅回路というと、反転増幅回路と非反転増幅回路の2つがありますが、ここでは、非反転増幅回路にします。 理由は、入力インピーダンス = オペアンプの入力インピーダンス(データシートでは1000MΩ)ととても高い値にできて、前段の同調回路に影響を与えずに済むからです。

両電源か単電源か

私は両電源駆動がかなり嫌いなので、片電源でも動かせるようにします。 ただし、一度に2つのこと(増幅と単電源化)をやろうとすると、動かなくなったときに問題の切り分けが難しくなりそうなので、まずは両電源で動かしてみます。問題がなければ回路を単電源化します。

回路

両電源版

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回路図(両電源版)

LTSpiceにLME49720がなかったため、同じく低ノイズなオペアンプLT1128を使用しています。

単電源版

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回路図(単電源版)

バイアス抵抗について

まず、非反転増幅回路では、入力インピーダンスを設定する抵抗Rinを設けることがあるかと思います(下図中Rin)。 確かに、オペアンプの入力インピーダンスZinはかなり高いため、インピーダンス整合の観点からすれば、Rinを前段の出力インピーダンス(Z_out0)と同じ値とするのが良いかと思います。

今回このようにすると、前段はLC同調回路であるため、Rinは数十kΩくらい?になるかと思います。 この場合、抵抗の熱雑音が無視できない(帯域幅を決めていないが、μVオーダーになるイメージ)ので、設けないことにしました。

(参考)抵抗から発生する熱雑音と抵抗値の関係 | CQ出版社 オンライン・サポート・サイト CQ connect

また、Rinを無くすと、インピーダンス整合は整合されなくなりますが、増幅回路の入力インピーダンスZinが十分高くなるので(Zin >> Z_out0)、前段の出力電圧 ~ 入力電圧となるかと思います(インピーダンス整合時はR3 = Rinなので入力電圧 = 前段出力電圧 / 2)。

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Rin

帰還抵抗R3に並列接続したC2について

今回、40kHzの信号だけ取り出せれば良いので、それより高い周波数の信号は無駄であり、なるべく除去すべきです。 ここで、CをR1に並列に接続することで、高周波域では|Z_C| << R1となり、ゲインG = (1 + R1/R2)が1へと落ちていくはずです。

具体的には、|Z{C_2}| = |Z{R_3}| = R3であるときに、C_2 // R_3の合成インピーダンスがR3の1/2になり、ゲインG' = (1 + 1/2 × R1 / R2)となるはずです。 正確には1/2ではありませんが、基本的に1 << R1/R2(強引かな)なので、大体の目安になると思います。 この周波数は、f_c = 1 / (2×π×C_2×R_3) [要導出]で、38kHzです。

…ちょっと低いですね

820pFにして、f_c ≒ 102kHzくらいが良い気がしました(高いですが、40kHzがほぼ落ちないようにLTSpiceでカット&トライした結果)。

C4について

こちらも、本来は必ずしも必要のないコンデンサですが、余計な信号を落とすために入れています。 C4とR2が形成するフィルタは、-3dB周波数f_c = 1/(2πC_4R_2)となるので、回路図の定数を用いるとf_c = 1/(2×π×(0.022×10-6)×100) = 72kHzになります。

…ちょっと高いですね。

0.082μFにして、f_c ≒ 19.4kHzくらいが良い気がしました。

また、単電源の場合、振幅がAの交流信号をただ入力してしまうと、0V付近の信号となってしまい、うまく増幅できません。 そこでバイアスを掛ける必要がありますが、単純に入力信号VinにバイアスVcc/2を掛けてしまうと、出力はそのゲイン倍(Vin + Vcc / 2)×Gとなってしまい、バイアスごと増幅されてしまいます。 対策として、C4をR2に直列に接続し、直流のバイアスに対するゲインを0としています。

単電源化

入力にバイアスを設けているだけです。本当はC4も必要なのですが、これは両電源でも入れているので割愛します。

オペアンプを単電源で駆動する際のバイアスの掛け方の中では、回路図の掛け方は単純な方だと思いますが、面倒だったのでこのままとします。 基板に組むときにはもう少しまともにしようと思います。

(参考)AN-581 アプリケーション・ノート 単電源アプリケーションでのオペアンプのバイアスとデカップリング

結果

LC同調回路のみ

雑多な信号が比較的広い帯域に亘り存在しています。 肝心のJJYの信号は、ノイズに埋もれてかすかに見える程度です。 LC同調回路を直接50Ω入力につないでいるため、LC同調回路からの信号が(ケーブルが拾うノイズに対して?)相対的に弱いです。

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LC同調回路のみの場合

2SK241 + 負荷に同調回路

負荷にLC同調回路を別に設けているので、JJYだけをよく選択できています。 (LC同調回路はかなりQが高いので、抵抗を並列接続しQを下げ帯域を広くしたりもしますが、JJYはCWなのでシャープな選択性を比較的保ったままで大丈夫なのもあります)

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2SK241 + 負荷に同調回路を設けた場合

オペアンプ(両電源)

JJYはよく分かるのですが、2SK241と比べると余計な信号が多く見られます。 (特に、40kHz程度で折り返している信号が見えます…なんだろう)

あと、縦軸から、ゲインが2SK241より高いことがわかります。2SK241も電圧利得にして20dB程度あると思っていたので、これはちょっと原因不明です…。

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オペアンプ(両電源)の場合

オペアンプ(単電源)

…測定途中で一度ブレッドボードを落としてしまったのですが、その前後で特性がかなり変わってしまいました。 一応回路が変になっていないかは確認したのですが、なぜなのか…そしてどちらが正しいのか…。

落としてしまった後が正しいとして考えると、選択度は劣るものの2SK241に近いかなあと思います。

また、35kHz付近と50kHz付近に、JJYと同程度の強さの信号があります。 最終的にはJJYの信号のみを取り出し、整形することを考えると、これを落とすためには結構急峻なフィルタが必要なように思います。 40kHzのBPFで考えると、LC同調回路か、あるいは水晶振動子を通すとかでしょうか(オペアンプでも作れますが、そこまでQが高くないので)。 どちらかというと、周波数変換してからLPFを通したほうが簡単そうです。 ただ、その場合、周波数変換まではこれらの信号も一緒に増幅されるので、混変調歪などが生じないかが心配です。

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オペアンプ(単電源)の場合。落とす前

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オペアンプ(単電源)の場合。落とした後

結論

  • オペアンプでも闘えそうです
  • ただし、どう信号を保つか(余計な信号を落とすか)が悩ましいです
  • ブレッドボードでは不安定なので、基板に組んで再測定したいです