働きたくない

5000兆円欲しい

JJY(40kHz)のAirspyによる受信 (5) - 共振器容量結合型BPF

今回は40kHzのBPFを作成しました。

(2020/10/19)通過域の幅を間違えて計算してしまっていました。正しくは300Hz = 0.0003MHzです。0.003MHzだとQ = 40kHz / 3kHz = 13.3…になってしまう。

(2020/10/24)設計通りのQが得られない理由として、使用したアキシャル・リード・コイルのQが低かったというのも理由にあると思います。後で記事にしようと思います。

背景

今まで作成した回路で40kHzを受信した時のスペクトルは下図で、ご覧の通り、受信したい40kHz以外でも信号が存在しています。 今後、信号からタイムコードを復元する際に2値化することを考えると、あまりS/N比が良くないのは都合が悪いです。

f:id:vita_brevis:20201011194736p:plain
40kHz受信回路における前段(RFAMP)出力

一方、この一連の製作記事では、基本的に増幅素子としてオペアンプを使用しようとしていますが、オペアンプの代表的なBPFである多重帰還型では、あまりQを高くできません(Q > 10だと不安定[1])。 そのため、ここではパッシブ素子によるBPFを作成し、選択度の向上を狙います。

元々は、以下のような複同調回路を用いた選択度の向上を検討していました。 しかし、複同調回路はあまり理論的な解説が見当たらず、どのように部品の定数を決めればよいか分からずにいました。

(調べる糸口となるのはここ? http://naka929gen.cocolog-nifty.com/blog/2015/10/no139-567e.html

f:id:vita_brevis:20201011194325p:plain:w450
複同調回路(と思っているもの)

そんな中『LCフィルタの設計&製作[2]』(森 栄二, CQ出版)を読んでいたところ、似た(というか同じですよね?下図はタップを出しているだけで…)回路として共振器容量結合型BPFがあることを知りました。 この方式のBPFは、LC同調回路を何段も組み合わせるものだからか、比較的大きなQのBPFを実現できるようで、今回使うのに向いていそうです(信号がA1Aなので必要な帯域幅が小さい)。 また、LC同調回路の組み合わせであるためか、実現不能な定数値となることもなさそうに思えます。

以上の理由から、40kHzの信号のみを通過させる共振器容量結合型BPFを作ることにします*1

要件

要求スペックは下記とします。

パラメータ 理由
-3dB帯域幅BW < 300Hz 一般的なCW用フィルタの帯域幅が300Hzのため。厳密には、帯域幅が-3dB帯域幅を指すとも限らないが、まあ誤差とします。
入出力インピーダンスZ 600Ω・330Ω 600Ωは、一般的なトランジスタ回路のインピーダンスとしました。前段はオペアンプ出力のため十分Zが低く、後段もオペアンプを予定していてインピーダンスを変えられそうなので、良しとしました。
330Ωについては、後でZが低いほうが(Airspyを使うには)便利かと思い適当に設定しました。
段数 2 裾をどれだけ落としたいかによって決めるべきと思うのですが、試作でもあるので最低の2としました。

設計

いきなりの手抜きですが、下記サイトに便利なExcelファイルがあるのを見つけたので借用しました。 文献[1]や[2]を読めば、手計算により設計することもできますが…。

このExcelファイルで計算すると、次のような定数となります(今後のために、スクリーンショットで残しておきます)。 ちなみにQはLとC1の比により定めます。

この結果のL・Cを近い値に丸めて、部品の定数は下表とすることとします。

部品 定数(Z = 600Ω) 定数(Z = 330Ω)
L1, L2 100μH + 22μH 68μH
C1, C2 0.12μF 0.22μF
C12 6800pF 0.012μF

f:id:vita_brevis:20201011194853p:plain
中心周波数40kHz, -3dB帯域幅3kHz, 入出力インピーダンスZ = 600Ωでの共振器容量結合型BPFの設計値

f:id:vita_brevis:20201011194859p:plain
(参考)中心周波数40kHz, -3dB帯域幅3kHz, 入出力インピーダンスZ = 330Ωでの共振器容量結合型BPFの設計値

製作

基板周り

基板は、生基板をリューターで削って作りました。 その上で、裏面には銅箔テープを貼っています。 反省は、信号線のパターンでGNDを分断してしまったことです。SMAコネクタ周囲の信号線を分離すれば、ベタアースが繋がり、別に裏面を加工する必要もなかった…。

次に、Φ1.5くらいのドリルで穴を開け、ハンダメッキ線を通すことで、ビアとしています。 また、このハンダメッキ線を別のビアにも使うことで、銅箔テープを上から抑えるようにもしています。

最後に全面をハンダでメッキ(?)しています。生基板もそうなのですが、特に銅箔テープがすぐ錆びてしまうのを嫌ってです。別に後から磨くなり削るなり何なりすれば、銅箔が復活しそうな気はしますが…。 それよりはこちらのほうが楽そうなので。

f:id:vita_brevis:20201011203308j:plainf:id:vita_brevis:20201011203304j:plain
完成図(左)表面(右)裏面

部品周り

実装はまあコンデンサとコイルを買って載せるだけなので特に何も書きません。
特記するとすれば、扱う信号がそこまで高周波ではなく、コイルの自己インダクタンスの定数が比較的大きいので、おそらくnHオーダーになるであろうリード線のインダクタンスのことは無視しました。

両端にはSMAコネクタをつけています。 SMAコネクタは高周波信号を扱う際に使いがちですが、ここではただ小さくて便利ではんだ付けしやすいからという理由で、この高いコネクタを使っています…。 特性インピーダンスが50Ωで合っていない問題もありますが、考えないことにしました。

測定

実は、次のような理由から、まだ周波数特性を測れていません…。

  • スペアナのTGが40kHzまで低い周波数を出力できない
  • また、スペアナが50Ω入力で、インピーダンス変換する回路をまだ作成 or 入手できていない

とはいえ気になりはするので、インピーダンスのミスマッチは承知の上で、Z = 330Ωのフィルタの出力を直接Airspyに繋げ、スペクトルを眺めてみました(下図)。 この結果をまとめると次のような感じでしょうか。

  • 確かに余計な信号(例えば20kHz付近の山)は減衰した
  • 一方、60kHz付近の山はあまり減衰できておらず、フィルタの次数を上げ裾の減衰を強くした方が良さそう
  • また、40kHz付近では、少し高いところにある信号があまり減衰しておらず、Qが低いように思われる。この原因の一つは、出力インピーダンスZ = 330Ωであるのに50Ω入力のAirspyを繋げているため。インピーダンスを整合させるとQが設計値に近づくと思われる
  • (実は密かに)前段のオペアンプの非反転増幅回路が発振しないか心配していたが、それは良さそう

ここから、改良したものを作るとしたら下記のようにすべきと思われます。

  • Butterworth型ではなく、より減衰が大きいChebyshev型で作る
  • 次数を上げて裾の減衰を大きくする
  • Qは上げられそうなら上げる(上げすぎると、コイルやコンデンサの容量誤差の影響を強く受けてしまいそう)

とはいえ、今はまだインピーダンス整合ができていないような状況なので、まずはインピーダンスを整合させてちゃんと特性を観察してみたいと思います。

f:id:vita_brevis:20201011200120p:plain
共振器容量結合型BPFを介した場合のスペクトル

おまけ

ついでに40kHzの水晶振動子をフィルタとして利用した場合も試してみました(詳細は別の記事にまとめようと思います)。 結果は以下のようなスペクトルになります。 もう、今回のBPFとは大違いですね…。これを見てしまうと、もうこっちで良いじゃないか、という気しかしません…。

f:id:vita_brevis:20201011201831p:plain
水晶振動子をフィルタとして使用した場合のスペクトル

参考

複同調回路の理論的な話は、ありそうでなかったです。[1]はまだ全然読んでいません…。

*1:135kHzのBPFも似た感じで作れそうですね