働きたくない

5000兆円欲しい

短波用 同調型バー・アンテナの製作

旅行用のコンパクトかつ実用性のあるアンテナに悩んでいて、どんなものかと連休に勢いに任せて作ってみました。 その製作記事です。

回路図上では部品点数3点(コイルとバリコン、BNCジャック)のみの簡単な回路なのですが、いざケースに入れ形にするところまでまとめようとすると、思ったより長くなってしまいました。

f:id:vita_brevis:20210926043249p:plainf:id:vita_brevis:20210926043237p:plain
このようなものを作ってみました(左:中身、右:外観。上:実用1号機、下:試作機)。中にはどーんとバー・アンテナが入っています。試作機はバンド切り替えスイッチがありません。また線材がUEWです。

目次

動機

今までは、数mのワイヤーアンテナ + バラン、ロッドアンテナなどの電界アンテナを使っていましたが、旅行先(特にホテルの部屋)というのは雑音の多いことが多く、あまり満足行く結果を得られてきませんでした。

そこで、持ち運べる程度に小型かつ重くなく、雑音に強いと言われる磁界アンテナである(同調型)バーアンテナを作ってみました。

(ところで、同調型にすることの利点ってなんでしょう。混変調などを防げる、というのはあると思いますが他には…?)

参考文献

今回は、CQ出版社の「小型・高感度受信!オールバンド室内アンテナの製作」(鈴木慶次・川上春夫 著)という書籍の「5-3 共振型バー・アンテナを作る」を全面的に参考にしています。

ただし、幾つか修正があります。

  • 持ち運びのため、フェライト・バーは全部ケースに納めた
  • フェライト・バーの長さは、在庫と持ち運ぶ都合上短くした(180mm → 120mm)(※1)
  • 各マーチス・1.7MHz帯の漁業無線も聞けるように、周波数の下限を小さくした(3MHz→1.6MHz)
  • その分高い周波数もカバーできるよう、1次側コイルの巻数をスイッチで切り替えられるようにした(※2)
  • 1次側コイルと2次側コイルのGNDは分離(製作上繋ぐのが面倒だったため)
  • 線材をリッツ線に変えた(あまり違いを感じなかった)

※1 そもそもフェライト・バー・アンテナの実効長は、断面積には比例しますがフェライト・バーの長さには(数式上は)比例しないのでは…?なんで長いと感度が良いのでしょうか…と思ったのですが、実効透磁率がコイル長$$l$$とフェライト・バーの長さ$$b$$の比$l/b$に依存するから…ということはあるらしいです。参考:http://ndxc.starfree.jp/documents/horibapdf/021102-001.pdf

※2 しかしフェライト・バーはあまり高い周波数まで使えない(透磁率が落ちる)ため、正直特に高周波側を伸ばすのはあまり意味がない気がしました…。

材料

手持ちの材料の利用が多いですが、列挙したところ下記になりました。回路としては至極単純なんですが、ケースに納めようとすると色々必要になってきますね。

名前 品番 製造元 個数 価格 購入場所 コメント
フェライト・バー(長さ120mm, 直径10mm) 不明 不明 1 不明 (在庫品を使用) シオヤ無線に行けば売っていると思う。
粘着テープ付きワイヤークランプ PE-361NH ELPA 朝日電器株式会社 2 300円@6個入 千石通商 ケースにフェライト・バーを固定する。ケース内のスペースがないので小さめのものがよい。またネジ止め式ではなく粘着テープ式がよい(加工が楽)
リッツ線(30/0.08) - 礎電線 数m 88円/m オヤイデ電気 外径0.8mmくらいのUEWでもいい
ハックルー(マジックハンダ) - HAKKO 白光株式会社 数cm - (在庫品を使用) 千石通商・秋月電子通商で売っている
単連ポリ・バリコン(260pF) PVC-1 - 1 270円 シオヤ無線 千石通商でも売っている。固定用皿ビス(M2.6x5)が付属。ないなら別途買う必要。
ポリ・バリコン用ダイヤル - - 1 90円 シオヤ無線 千石通商でも売っている
ポリ・バリコン用延長シャフト - - お好みで 80円 シオヤ無線 千石通商でも売っている。回転軸の滑り止めにポリ・バリコン側が二重Dカットのようになっているので、それに嵌合する形状であることが大事
BNCコネクタ(BNC-J 角座4穴) B-012-TGN COSMTEC RESOURCES CO., LTD 1 170円 秋月電子通商 4箇所をネジ止めするため、丸座より緩みにくい印象があり、角座を使いがち。その分穴加工は大変
M3 ネジ・ワッシャー・スプリングワッシャー・ナット - - 4組 - (在庫品を使用) BNCコネクタを止める用。秋葉原で買うなら西川電子部品。
スライド・スイッチ(パネルマウント式、1回路2接点) - - 1 - (在庫品を使用) こういうやつ
ケース SW-130S 株式会社タカチ電機工業 1 200円 秋月電子通商 -
コピー用紙 - - 1枚 - - 万が一の絶縁のため、バー・アンテナに一応巻いておく
セロハンテープ - - - - - 仮止めと、ワイヤークランプとフェライト・バーの間の隙間を埋めるために使用

作成

製作途中の写真はありません。上の完成した写真から把握してください…。

0. リッツ線の処理

特にどこのサイトにも書いていないんですが、リッツ線の扱いにかなり苦労したのでメモです。

よくリッツ線の扱いで出てくるのは、撚り合わせた線材1本1本の被覆処理ですが、これは普通のUEWと同じく熱した半田の塊につっこんだら問題なくできました。

より手間取ったのは、細い線材を束ねる白い覆いがすぐ緩んで解けてしまうこと です。下手にリッツ線を切ってしまうと、その端からどんどん緩んで、中の線材がバラバラになってしまいます…。これ、全然他のサイトだと取り上げられていないのですが、よい回避方法があるのでしょうか…?

私は、切る前に線材にまず結び目を作ってから切るようにしました。こうすると流石に解けないようです。そして端を予備ハンダすると白い覆いが熱で溶けて固まるので、解けにくくなります。

1. フェライト・バーにコイルを巻く

本来は参考にした本のように(計算して)作るべきと思うのですが、面倒なので、最初に1次コイルを巻きつけるときはNanoVNAで実測しながら現物合わせで作ってしまいました。

  • 1次側コイルを作る。まず、フェライト・バーにコピー用紙を何回か巻きつけ、セロハンテープで固定
  • リッツ線を適当に20巻きし、バラバラするのでセロハンテープで仮止め
  • リッツ線にポリ・バリコンをハンダ付け
  • 別のBNCコネクタ(丸座)を用意し、適当な銅線をハンダ付けした上で、フェライト・バーに2・3回巻きつける
  • このBNCコネクタにNanoVNAを接続
  • 周波数の下限が1663.5kHzくらいになるよう巻数を調整

次に、1次側コイルにタップを設け、2次側コイルを巻きつけるのですが、ここでは必要なインダクタンスと1次コイルの巻数から、巻数を計算したうえで巻きつけます。

まず、ポリ・バリコンの容量が260pFであることと、多分5pFくらいまで変化すると仮定して、理論的なコイルのインダクタンスを決めます。

  • 1次側コイル(低)のインダクタンスL_{1l}を決める。L = 1/(4 \pi^2 f^2 C) より、C = 260pF, f = 1663.5kHzなので L = 35.2 \cdots μH
  • 1次側コイル(低)を使用した場合の周波数の上限 f_{l, max} を求める。C = 5pFとしてf_{l, max} = 1/(2 \pi \sqrt{L_{1l} C_{min}}) \simeq 11.97MHz
  • 1次側コイル(高)のインダクタンスL_{1h}を、(周波数の下限が概ね1つ上で求めた上限くらい…10MHzとした…になるように)決める。L_{1h} = 1/(4 \pi^2 f^2 C_{max})より、C = 260pF, f = 10 MHzなのでL_{1h} \simeq 0.97 μH
  • 1次側コイル(高)を使用した場合の周波数の上限を求める。L = 0.97μH, C = 5pFとしてf_{h, max} = 1/(2 \pi \sqrt{L_{1h} C_{min}}) \simeq 72.27]MHz
  • 2次側コイルのインダクタンスを決める。率直に言うと決め方がよく分からなかったので、(よい方法なのか知りませんが)希望周波数範囲の中間(f_{ave} = 5MHz)で2次側のコイルのインピーダンス50 + 0i Ωとなるように、つまり平均的には整合しているようにしました。Z = 2 \pi f_{ave} L_2より、Z = 50 + 0i Ω, f = 5MHzなのでL_2 \simeq 1.59μH

次にインダクタンスから巻数を求めます。巻数は、透磁率が大体似たりよったりなのか、雑誌の記事と巻数 - インダクタンスの関係はあまり変わりませんでした。

  • バリコンを容量が最大となるようにした上で、NanoVNAを使い1.6MHzで共振するようにしたとき、1次側コイル(低)は21巻だった。よって、このときが35.2μHだったとして、1次側コイル(高)の巻数はN_{1h} = \sqrt{L_{1h} / L_{1l}} N_{1l} = \sqrt{0.79 / 37.08} \times 21 \simeq 3.48 \rightarrow 3
  • 2次側コイルの巻数は、N_{2} = \sqrt{L_{2} / L_{1l}} N_{1l} = \sqrt{1.59 / 37.08} \times 21 \simeq 4.46 \rightarrow 4

よって、この巻数に従ってタップを設け、2次側コイルを巻きつけます。

巻き終えたら、次の処理をします。

  • コイルの両端の線をマジックハンダで固定(そうしないとかなり扱いづらい)
  • ケーブルクランプに嵌めた時にガタつかないよう、フェライト・バーにセロハンテープを巻きつけ嵩増し
  • この段階で問題なく受信できそうかテスト(※)⇒ 実際の受信範囲は、1.6MHz~10.2MHzと9.2MHz~18.4MHzとなりました。思ったより高周波側が伸びていない

※本当だったら、LCRメーターでインダクタンスを測り、ちゃんとコイルが想定通りに作れているか確かめるのがベストなのでしょうが…秋月電子通商に行ったらLCRメーター(DE-5000)が売り切れだったので、測れていません。

2. ケースを加工する

現物合わせで、バリコン固定用の穴、スライドスイッチ用の穴、BNCコネクタ用の穴を設けました。

  • バリコン固定用の穴:次のサイトの図面の通り加工した。問題なかった:https://mizuho-lab.com/fm/radio.html。真ん中はΦ8。固定用ネジはM2.6だが、ダイヤルに干渉しないよう皿ネジなのでザグリ加工が必要。プラスチックケースは柔らかすぎて、適当な太めのドリルでザグろうとすると巻き込まれて穴が空いてしまう…。
  • スライドスイッチ用の穴:完全に現物合わせ。四角穴の加工になるが、これは幾つかドリルで丸穴を開けて、ヤスリで四角に整形しましが。開けづらいので、丸穴で済むスイッチがいいですね…。
  • BNCコネクタ用の穴:図面はあるが現物合わせ。まず真ん中の穴を開ける(Φ10)。次にコネクタ自体をガイドに使いネジ穴の1つを開け、ネジで仮止めする。次に、残りの3穴をドリルで開け、最後にすべてをねじで止める

3. 配線

特にコメントなし

4. 仕上げ

組み立てた上で、実際に受信してみて問題なければよしです。

雑感

使ってみた感想。まだ旅行に携行してはいないのですが、とりあえず自宅で試したところ、屋外のアンテナでも受信が割と厳しい東京マーチスが、室内で受信できました。ベランダまで出るともっとクリアに聞こえ、思ったより感度が良いように感じました。

他には、室内で、7MHzアマチュア無線バンドのRTTYやFT8、LSBの音声などが入りました。また8MHzの韓国の海岸局も室内でうるさいくらい入感しました。ただ、やっぱり屋外(屋上)設置の303WA-2よりは劣りますが、これは流石に比較するのが可哀想ですね。

また、コイルの線材を0.2mmのUEW線とし、高周波側の回路は省いた簡易版も作ってみました(最初の写真に写っているうちの片方)が、受信感度にはあまり差がありませんでした。そういうものか…という感じですが、見ていた資料(http://ndxc.starfree.jp/documents/horibapdf/021102-001.pdf)でもそのように記載があったので、間違ってはいなさそうです。

おまけ:18cm版の作成

シオヤ無線で18cmのフェライト・バーが売っていたので、買って18cm版も作ってみました。バンド切り替え機能は省きました。東京マーチスを試しに聞いてみましたが、そこまでの違いは感じませんでした。資料(http://ndxc.starfree.jp/documents/horibapdf/021102-001.pdf)によれば、コイル長l = 4cmとすると、18cmの場合はフェライト・バーの長さとの比がl/b = 0.22 \cdotsなので、巻線係数\gamma \simeq 0.92です。一方、12cmの場合はl/b = 1/3で巻線係数\gamma \simeq 0.9なので、誘起電圧の最大値E_m \propto \gammaであることを考えると、結局ほぼ変わらない感じでしょうか。

あと、こちらはフェライト・バーがむき出しなのであまり外に持ち出せません。屋上などで受信するのに使おうと思います。

f:id:vita_brevis:20210926044247p:plain:w600
18cmのフェライト・バーを使って作った同調型バー・アンテナ。在庫のM3の圧着端子がなく、BNCコネクタのGND接続のみ未完。