製作といってもバランにワイヤーを付けただけですが。
何をしたか忘れてしまいそうなのでメモです。
動機
まあ…ねえ。書かなくても伝わりそうなものですが。
市販のアンテナのうち、短波帯で特定の周波数に特化したものは、(個人が把握しているものだと)ほぼアマチュア無線向けのものだと思います(クリエイトが16/22MHzの八木を出していたり、どこかで27MHz CB向け4エレ八木を見た記憶はある)。
なので、BCLしたい、漁業無線を聞きたい、となった時には、基本的には広帯域受信用のアンテナを使うかと思います。少なくとも私はそうで、ApexRadioの303WA-2を使用しています(お金があればログ・ピリオディックアンテナの乗ったアンテナタワーを立てるのですが。お金があれば。お金があれば)。
これは結構性能がよいのですが、SWRを測ってみると別に漁業無線帯にマッチしているわけでもなく、そもそも一般的にノン・フリーランチといいますか、広帯域受信用のアンテナよりは特定周波数に特化したアンテナのほうが、やはりその周波数では性能が良いイメージがあります。
特に遠くの局を聞きたいとなると、やはり303WA-2では性能の限界を感じることがあり…というか22MHz帯なんて全然入感しません。一方、漁業無線の局はこの周波数帯で運用しているはずですから、ロケーションの差もさることながらアンテナも改良すればもっとマシになるに違いないと思い、漁業無線の周波数帯専用のアンテナを作ってみました。
アンテナの選択
アンテナといっても世の中には色々なものがあります。上に書いたような八木アンテナに、ダイポール、ループ、ディスコーン、等々。
今回は、特定の周波数に絞って受信する、製作が簡単である、あまりスペースを必要としないことを重視し、オーソドックスな(そして調整が基本的にはワイヤーの長さを調整するだけという)水平型のダイポール・アンテナとしました。
※いきなり調整項目が幾つもあるようなものをやろうとすると、大概失敗する上に、失敗した原因がどこだか分からなくなってしまう気しかしないので…。
長さの決定
ダイポール・アンテナで事前に決めておくべきものは長さです。概ね片側は波長の1/4です(ただし短縮率が掛かるため大体その0.95倍程度が実際必要な長さ)。
今回は、漁業無線帯のうち屋上に張れそうな周波数帯ということで、13(12)MHz, 17(16)MHz, 22MHzの3バンドのアンテナを作ることにします。これらのバンドにおけるダイポール・アンテナの片側の長さは、下表のとおりです。
バンド | 目標周波数(※) | 1/4 | 1/4 | 準備したワイヤーの長さ | |
---|---|---|---|---|---|
13(12)MHz | 13MHz | 23.06m | 5.77m | 5.48m | 6.2m |
17(16)MHz | 17.1MHz | 17.53m | 4.38m | 4.16m | 5m |
22MHz | 22.6MHz | 13.27m | 3.32m | 3.15m | 記録なし |
※バンドは広い一方、ワイヤーで設定できる長さは1つだけなので、バンドの中のある周波数を目標に設計しないといけません。その周波数のこと。大体中心にとった
参考文献
私は下記の本を参考にしました。
この本の1章「1-1 基本はダイポールアンテナ」を一番参考にしています。というか、そのまま。
古い本のようですが、オンデマンド版がCQ出版社から出ています。第3章「2-4 7MHzダイポール」が参考になるかと思います。ちなみにこの本はワイヤーアンテナに特化した本で、前半に、様々な形式のワイヤーアンテナが掲載されています。また、第2章「アンテナの工作」には製作のノウハウが色々書かれているので、模式図と現実の隔たりを埋めるときに大いに参考になるでしょう。
- CQ出版社「アンテナ・ハンドブック (ダイナミック・ハムシリーズ (5))」1985
理論面ではぶっちぎりで詳しい気がします。作例も超豊富。絶版なので中古で購入しました。
材料
次節で詳細を書きますが、ワイヤーを張るためのポールを準備したため、想定より色々必要になってしまいました。
ロープで固定するため、ロープの長さ調整が必要で、私はターンバックルを使いました。一応自在結びというのが有るので、ロープの扱いが自由自在な方はそうすれば良いと思います…。
名前 | 型番 | メーカー | 個数 | 価格 | 購入場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
広帯域バラン | BU-50A | 第一電波工業株式会社 | 1 | ? | ? | 本来なら自作するのが安上がりだし良いのでしょうが…自信がないので購入。圧着端子付き |
UL難燃架橋ポリエチレン絶縁電線 | UL3265 AWG20 10m WH | 協和ハーモネット | 3 | 単価539円 | monotaro | ワイヤーアンテナのためのワイヤー(サガ電子のAW-2.8, AW-3.5)もありますが、通常の電線でも問題なく使えています。多分耐候性と線材にかかる荷重に強いのでしょう… |
裸圧着端子(R形丸形、内径5mm) | R1.25-5-20P | ニチフ | 4 | 20個 149円 | monotaRO | BU55付属の圧着端子は2つだけですが、3バンドだと6つ必要なので、残りは購入する必要 |
ナイロンロープ(直径3mm, 3つ打) | R-310N | トラスコ | 10m x3 | 単価440円 | monotaRO | ワイヤーと支柱を結ぶ部材です |
シンブル | KR-4 | 水本機械製作所 | 6 | 単価139円 | monotaRO | - |
ターン・バックル(両フック) | TTB-05 | トラスコ | 6 | 単価557円 | monotaRO | もう少し安いのものもありますが、可動域が15cmくらい取れると調整しやすいとわかったのでこれを使っています。 |
シャックル | B-1417 | 水本機械製作所 | 6 | 単価999円 | monotaRO | ステーを張る先に合わせる。大きいものは中 |
結束バンド(屋外用) | TRJ200SB | トラスコ | 18 | 200本471円 | monotaRO | バラン側の線材の固定用。耐候性のあるらしい屋外用の結束バンドを選択。 |
以下支柱用の部材。どちらかというとこちらの方がウェイトが高い…。
この中で特殊なのはリングフックでしょうか。調べてもらえれば分かると思うのですが、リングのフックをパイプに取り付けられるものです。ここにターン・バックルを掛けると良い感じで重宝するのですが、全然下表に記載した以外の部材を見つけることができませんでした。世間的には何ていうんでしょうね?何で検索すれば見つかるのだろう…。
あと、シャックルが割と値が張りました。なぜ。
名前 | 型番 | メーカー | 個数 | 価格 | 購入場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
フィールドポール(高さ3m、外径38mm) | SFP383G | グラス・ファイバー工研株式会社 | 1本 | 16720円 | 公式通販サイト | 高さはお好み。3mのものは、購入前にまずメールし配送可否を調べてもらう感じです。 |
フィールドポール(高さ2m、外径38mm) | SFP382G | グラス・ファイバー工研株式会社 | 1本 | 11000円 | 公式通販サイト | 高さはお好み。 |
デベリング(径38mm用) | DR39 | グラス・ファイバー工研株式会社 | 2 | 単価4830円 | 公式通販サイト | - |
デベマウント(52x38mm) | DM5238 | グラス・ファイバー工研株式会社 | 2 | 単価4950円 | 公式通販サイト | ポールを柵の上側に固定する用 |
クロスマウント | PT08B(多分) | DXアンテナ | 2 | 単価877円 | Amazon.co.jp | ポールを柵の下側に固定する用。柵の都合で下側はデベマウントではないものを使用 |
デベグラスワイヤー(直径4mm) | W040030 | グラス・ファイバー工研株式会社 | 30m | 4433円 | 公式通販サイト | 長さはお好み |
ワイヤークリップ(使用ロープ径4mm) | MSW-4 | monotaRO | 36 | 単価149円 | monotaRO | 実は径4mmのワイヤークリップというのは世の中にあまりないのか、ホームセンターでは見つけられていません。monotaROに丁度良いものがあったのでよく使っています。 |
ターン・バックル(両フック) | TTB-05 | トラスコ | 6 | 単価557円 | monotaRO | もう少し安いのものもありますが、可動域が15cmくらい取れると調整しやすいとわかったのでこれを使っています。 |
シンブル | KR-4 | 水本機械製作所 | 12 | 単価139円 | monotaRO | - |
シャックル | B-1417 | 水本機械製作所 | 6 | 単価999円 | monotaRO | ステーを張る先に合わせる。大きいものは中々高い…。 |
リングフック | くい丸システムズ リングフック | 君岡鉄工 | 4 | 単価599円 | monotaRO | 適合パイプ径38.1mm |
水性FRP・プラスチック用塗料(グレー) | - | サンデーペイント | 1缶(200mL) | 769円 | monotaRO | FRP用のペンキ。ちなみに1缶だとデベパイプを計6m分塗ってもまだ余ります。 |
刷毛 | - | - | 1本 | 不明 | ホームセンター | ペンキを塗る用。ローラーよりも刷毛のほうがやりやすかったです。缶に入るサイズのものを…。 |
製作
製作といっても、アンテナ自体は本当にワイヤーに圧着端子を繋ぎ、バランにネジ止めし、そして張るだけです。しかも一番オーソドックスなアンテナなので、本にもよく記事が載っています。
とはいえ、本に書いていないこともあります。一番苦労したのは、ダイポールを張るための両端の柱の準備。自立式のV字ダイポールであれば不要ですが、ワイヤー式だとそうもいきません。
今回は、柱を固定するアテとして屋上の柵を使いました。その柵を使う都合上、逆V字型(真ん中を柱で持ち上げる)ではなく、普通の両端固定としています。
柱として使えるものは色々有るかと思います(オーソドックスなのはTV受信用のアンテナマスト。他、塩ビパイプとか、竹、グラスファイバー製の釣り竿とか)が、今回はデベグラスポールを使いました。アンテナマストは金属製で重いので、万が一にも落下したらおっかなく、竹や釣り竿はしなるので常設するのは心配。適度に強度があり、かつ軽いことが理由です。
0. ポールやステーを固定できる場所があるか下見する
下見が大事です。まず、ダイポールを張る場所とその方向(指向性があるので)を考えておきます。 幸い日本列島は弓状の形をしていて、丁度真ん中ぐらいにいるので、あまり方向で迷うことはありませんでした(千葉県漁業などは多分聞こえなくなるのですが…比較的近いので303WA-2でカバーします)。
ポールの設置場所も見当を付けておきます。なるべく落下した時に被害がなさそうな場所にします。
ステーの固定する先も考えておきます。私の場合、これがネックでした。世の中にはステーアンカー(支線止め)というものがあります(例)が、これを平屋根の床に打つのは浸水のもとなのでちょっとやりづらく(建物って億円単位のものですからね…アンカー一つでそんな資産を壊したくはない)、また鉄筋コンクリート造の建物で外壁のタイルも固めだと、そもそも穴を空けるのが大変(インパクトドライバーの必要性を感じる)なので、建物によっては中々設置が難しいんじゃないかと思います。
結局、シャックル + ターンバックルで屋上の柵に止めるようにしましたが、こうすると今度は柵がある程度荷重に耐えられることが必要です。自身の例では、かなり昔からある柵なので、ポール2本の受風面積分の荷重がかかってもまあなんとかなるでしょう…。
色々寸法も測っておきましょう。クロスマウントやシャックルを買う時に必要です。
1. デベグラスポールにペンキを塗る
デベグラスポールは、取説上ペンキをぬってささくれ立たないようにせよとのことだったので、それに従いペンキを塗りました。 グラスファイバーなので、FRP用のペンキを塗りました(結構定着するのですが、物にあたったり擦れたりすると、やっぱりすぐ落ちてしまいます。雨には強いです)。
これが結構面倒で、かつ時間を喰います。天気のいい日に屋外で新聞紙を引いて塗るんですが、乾くのは1時間オーダーな気がしました。
ちなみに、ローラーよりも刷毛のほうが塗りやすかったです。刷毛は終わったら水洗い。
2. 柵にデベグラスポールを固定し、ステーを張る
- 先に、フィールドポールにデベリングとリングフックを付けておきます(高さ3mだと後からの作業は厳しい)
- 屋上の柵の横にポールを立て、デベマウントやクロスマウントで柵に固定します。柵の形状は必ずしもクロスマウントに合っていないので、よく固定できるかはやってみないと分からないところがあります…。ネジ止めが結構面倒で、Uボルトが長いのでラチェットレンチが使えないのがつらい。
- デベマウントとクロスマウントを少し緩める
- 後はひたすら以下を繰り返します
- ポールを下ろす
- デベリングにデベグラスワイヤーを通しワイヤークリップで止める
- ポールを仮固定する(緩めて隙間の空いたクロスマウントに上から通すだけ)
- 固定したい場所までデベグラスワイヤーを引っ張って、柵にシャックルとターンバックル(この時は長めにしておく)を付けてから、ワイヤークリップで止める(長めに取っておくといい)
※デベグラスワイヤーの端末処理の方法は「結びワイヤークリップ止め」と「糸密巻き止め」の2つが公式サイトで案内されていますが、後者のほうが効率が高いものの面倒なので結びワイヤークリップ止めを使用しています。
3. ダイポールを張る
ここまで来るとようやくアンテナを張れます。
1バンド毎に以下を行います。
- まず、電線を想定する長さ + 0.5mくらい長めに切断
- 圧着端子をハンダ付け(本当はカシメるんですが、工具がないのでハンダ付けした)
- バランに圧着端子をネジ止め
- バランの取扱説明書に記載のように、圧着端子に荷重がかからないようバラン上側の穴を一度通し、その辺りを結束バンドで固定
- バランとは反対側の、想定する長さより少し短めのところにロープをあやつなぎで固定
- ポールに設けたリングフックに、シンブル・ターンバックルを介してロープを固定。二重八の字結びがベスト
最後に、全部できたらターンバックルをまとめて締めます。
4. ダイポールの長さ調整
ここまでの道のりが思ったより面倒ですよね?こんなにかかるとは思いませんでした。
えー調整は、NanoVNAをつないで、SWRが中心周波数で最小値を取るようひたすらワイヤーをちまちま(5cmくらいずつ)切っていくだけです…。
ここで、切り過ぎると後戻りできない(できなくはないが、新たに線を繋ぐ必要がありかなり面倒だと思う)ので、はやる気持ちを抑えて細かく切っていくことが大事そうです。
1バンドずつ調整したほうがよいのですかね?あまりよく分かっていません。
結果
SWRの記録が手元にあるのが17MHzだけなのですが…17.050MHzでSWR = 1.24でした。13MHzと22MHzは不明…。
実際使ってみると、正直303WA-2よりかなり利得があります。お陰で、17MHzでは福島県、青森県、仙崎、22MHzでは静岡県と釜石が聞こえるようになりました。