今年の電子工作のお題はニキシー管時計かなと思っている。 それで、回路構成やどのような部品を使うか考えようとしたのだが、そもそもニキシー管がどういう素子なのか分からない。 そのため、ニキシー管の特徴を調べ、また2つの特性を測定した。
ニキシー管とは
ニキシー管とは、暖かみのある数字表示ができる、昔のデバイス。それはそう。 では理論的にはどうなのか。
区分
- ニキシー管は、そもそも電子管の一種。区分けはWikipediaが分かりやすい
- 電子管の中で、管の中が真空だと真空管、ガスが封入されていれば気体封入管。ニキシー管は気体封入管に属する*1
- また、陰極を熱するもの(「熱電子管」?。真空管など)と熱しないもの(「冷陰極管」)があるが、ニキシー管は冷陰極管の一種。同じガス封入の冷陰極管に、ネオンランプとかがある。
気体放電
次に、ニキシー管が使用しているという気体放電については、まず私は習ったことがなく、教科書等の手持ちもないが、調べたところ以下のサイト・pdfなどにまとまった記載があった。
- http://www.sign-jp.org/98/book/04.pdf
- グロー放電について解説
- https://www.jstage.jst.go.jp/article/jvsj2/57/8/57_14-LC-040/_pdf/-char/ja
概要をまとめると以下だと思う。
- ネオンランプ・ニキシー管ともに比較的安定なグロー放電を使用
- グロー放電では、陽極・陰極間のうち何箇所かが各々の理由により光るが、そのうちネオン管は陽光柱を使用する一方、ニキシー管は陰極グロー(負グロー?)を使用(陰極の周りだけがぼんやり光る)
このような放電管の電圧-電流特性(V-I特性)は、Wikipediaにあるように、大体以下のようになる。
- 電流あるいは電圧を増加させ、グロー放電開始電圧になると、タウンゼント放電からグロー放電に移行
- (前期)グロー放電では、電流の増加とともに、電圧は低下する(S形負性抵抗特性)
- (正規)グロー放電になると、グロー放電開始電圧よりも低い電圧で安定
- そっから先はまた増加してったりする(興味ないので略)
測定
ここからは測定結果を記す。
測定環境
- 電源:菊水 "MODEL PAB 250-0.25A" 250Vまで出力できる優れもの。ヤフオクで購入
- 電圧計(VM1):HIOKI DT4252 大学のロボット競技の講義で、チームが1位になったときの賞品のテスター
- 電流計(AM1):電源の電流計を使用
- ニキシー管:ラジオデパート3Fで買ったものだと思う。実は肝心の型番が、印字が消えてしまっていて分からない…。CD-83Pだと思っていたが、LD800*とかかもしれない。
- 裏に黄色の印字があり、多分NEC製。
- 高さ25.5mm(除く封入部)、33mm(含む封入部)
- 管径9.2mm
- ピン配置はANODEから時計回りにANODE, 0, 9, 8, DP, 7, 6, 5, 4, 3, 2, 1
測定回路
測定1:I-V特性
まず、電源電圧Vcc - ニキシー管の陽極-陰極間電圧Vtubeの特性を示す。
※NECのニキシー管の特性はだいたい放電開始170V(ニキシ管データ)とかなので、以下の測定値はかなり低い電圧範囲を見ていることになる…。
測定結果
データ番号 | Vcc[V] | Vtube[V] | Icc[mA] | 管の状態 |
---|---|---|---|---|
1 | 120.1 | 120.5 | 3 | 消灯 |
2 | 124.9 | 125.3 | 3 | 消灯 |
3 | 126.2 | 126.6 | 3 | 消灯 |
4 | 127.0 | 124.9 | 3 | 点灯 |
5 | 130.0 | 126.5 | 3 | 点灯 |
6 | 140.2 | 131.3 | 4 | 点灯 |
7 | 150.1 | 136.2 | 5 | 点灯 |
8 | 160.0 | 141.3 | 5 | 点灯 |
9 | 170.2 | 146.4 | 6 | 点灯 |
10 | 180.4 | 151.1 | 7 | 点灯 |
11 | 190.6 | 154.6 | 7 | 点灯 |
12 | 200 | 155.0 | 8 | 点灯 |
13 | 179.8 | 150.4 | 7 | 点灯 |
14 | 150.9 | 136.4 | 4 | 点灯 |
15 | 134.7 | 128.4 | 4 | 点灯 |
16 | 127.0 | 124.7 | 3 | 点灯 |
17 | 125.1 | 123.6 | 3 | 点灯 |
18 | 124.0 | 123.1 | 3 | 点灯 |
19 | 123.0 | 123.0 | 3 | 陰極の1部分だけ点灯 |
20 | 122.6 | 123.0 | 3 | 消灯 |
21 | 110.0 | 110.4 | 3 | 消灯 |
- グロー放電開始電圧は約127V(低くね?)
- 電源電圧は190VあたりからVtubeはほぼ横ばいだが、それまでは電流が増加しVtubeも増加(謎)
- 確かに開始直後、ニキシー管の陽極-陰極間電圧が低下
- グロー放電の特性から、放電を開始するとき(青線)と、終了するとき(橙線)では経路が異なり、ヒステリシスが存在
こうさつ
- 電流の増加に対し電圧も増加しており、思ったのと違う。その理由は良くわからない(標準的な電圧よりかなり低いからだろうか)。
- そもそも、規格表によれば大体170V-8mAが標準なのだが、そもそもそんなに電圧を掛けなくても良さそう。
測定2 表示しない桁の電圧
ニキシー管は、陽極が共通(アノードコモン)であるため、陰極を接地するかHi-Zにするかで制御することが多い。 その制御には、74141*2という比較的高耐圧の2進-10進デコーダIC*3が使用されることが多い。 しかし、よく考えてみると、点灯している数字については、ニキシー管の陽極-陰極間の電圧降下があるから、そこまでの耐圧が必要とは思えない(Vcc - Vtube - R * Iccがかかる)。
不思議に思って調べていると、どうも表示していない方の桁の陰極に、数十Vの電圧がかかるらしい(ref:http://mkusunoki.net/?tag=74141)
確かに、陰極-陽極間に電圧を掛けると、管内に電場が生じるので(なんだか原因と結果が逆な気がする)、使用していない陰極とGND(使用している陰極)間にも電位差が生じそうである。 ということで、使用していない電極にかかる電位を調べた。
結果
- 電源電圧Vcc = 180.4V, 電流Icc = 7mAで固定
- 測定回路は上と同じ
この条件で、一番手前の陰極6, 一番奥の陰極0をGNDに落とした場合の、その他の陰極 - GND間電圧は下表の通りであった(ただし、管の手前に近い陰極(6が一番手前)から順に並べた)。
点灯桁 | dot | 6 | 7 | 5 | 4 | 8 | 3 | 9 | 2 | 1 | 0 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
0 | 23.1 | 43.5 | 42.9 | 54.1 | 65.3 | 75.5 | 122.9 | 136.6 | 138.4 | 136.0 | - |
6 | 41.0 | - | 136.7 | 138.8 | 138.2 | 124.1 | 64.8 | 62.2 | 51.3 | 43.3 | 39.8 |
※8と3の間には陽極格子が存在するため、この間の電位には大きな差が生じる。
基本的には、GNDに落とした陰極に近いほど高電位であった。あれ、逆だと思うんだが…。
こうさつ
- こっちもこっちで想定と逆の結果となった
- しかし、確かに使用していない(Hi-Zにした)陰極には比較的高い電位にあるようだ。そのため、高耐圧のTrでスイッチングする必要がありそうだ
おまけ
電圧と明るさの関係(スマフォのカメラアプリの明るさ調整が自動で行われるため、あまり参考にならないが…)
*1:Wikipediaによれば、「内部は少量のアルゴンあるいはさらに少量の水銀を添加した0.15気圧以下のネオンガス(すなわち、放電電圧を低くするためのペニングガス)で満たされている」
*2:https://eandc.ru/pdf/mikroskhema/k155id1.pdf:多分耐圧60V
*3:74シリーズだと45や145?