アンテナは一日にしてならず。今回はタイトルの通りです。
(この記事ではアンテナを張るまでを扱っています。バランの設置などは書いていません)
アンテナ線を伸ばして張るだけ…本当に張るだけなんですが、なぜか最初から最後まで2週間位かかりました(構想からだと一ヶ月くらい)。はあ…。
目次
動機
よく受信機の製作といった雑誌記事で、「アンテナ線には数mのワイヤーを接続し…」とあり、ロングワイヤーアンテナは簡易な分、性能はあまり良くないのではないかという(とても非科学的な)先入観がありました。しかし、以下に示した、NDBや(旧)灯台放送をロングワイヤーアンテナで受信した話に触発され、本格的な(長い)ロングワイヤーアンテナ(英語ではRandom wire antennaとも言うみたいです*1)を設置してみました。
準備
設置場所の検討
最初に、まずどこに張るか検討しました。
そもそも、本来は波長に合わせて張るべきですが、そのような広大な土地は持ち合わせていません。仕方がないので、可能な限り長く張ることを考えました。結果、下図のようになりました。
以下概説です。隣の建物の屋上の端から、こちらの建物のベランダまで張っています。長さは総延長37mで、そこそこ長い方かと思います。途中、屋上の地デジ用UHFアンテナのマストにロープを固定し、方向を変えるとともに、荷重の分散を図ります。
端部は、塩ビパイプをどこかに固定し、その先端にロープを固定することで高さを稼ぐ方法も考えましたが、それは感度不足で困った時の案として取っておき、取り敢えずは対応しない(まず完成を目指す)ことにしました。
また、電線を買う時のために、事前に必要な長さを測っておきます。ここに結構時間を費やしてしまいました。というのも、私は、長いメジャーやレーザー測距計を持ち合わせていなかったため、まず測る方法から考えないといけなかったためです。結局、紙紐に1mごとにセロハンテープで印をつけたものを作り、それを張って測るという原始的な方法を取りました。Done is better than perfect...
部品の購入
次に、必要な部品を買い揃えました。
部品名 | メーカー・型番 | 個数 | 値段(税抜) | 購入場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
アンテナワイヤー | 【ドイツ製】超軽量アンテナ線 | 42m | @3,780(税込) | ウエダ無線 | 「42m エレメント径:約2mm(0.2mm x 15本撚線) 重量:約340g ハトメ 圧着端子付」。詳細は後述 |
ポリエステルロープ | ユタカメイク A508 | 10m | @249 | MonotaRO | 3ッ打 3mm×10m |
自己融着テープ | スコッチ UT-19 | 1 | @319 | MonotaRO | |
針金 | - | 少々 | - | - | 自宅にあったものを使用 |
買ったが使わなかったもの:
部品名 | メーカー・型番 | 個数 | 値段(税抜) | 購入場所 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|
クロスマウント | DXアンテナ PT02B | 1 | @1,970(税込) | ヨドバシカメラ | 当初、これをマストに固定し、Uボルトにロープを結びつける計画でした。しかし、サブ側にも何か挟まないと駄目なようでした |
アンテナ線
まず、要のパーツとしてアンテナ線が必要です。 電線なら何でもいい気がしますが…一応世の中には、アンテナ線向けの電線というものが存在するみたいです。 いまいち差が分かりませんが、耐候性と、張力への対応(比較的長い距離、自重を自身で支えるため)が特徴なんでしょうか。 価格差が6,000円もあったので、流石に後者を選びました。
2種しか見つけられていませんが、海外に目を向ければもっとあるのかもしれません。
ラインナップはどちらも約22mと約42mです。
ワイヤー固定用のロープ
次に、アンテナワイヤーの固定方法についてです。今回は、上記のアンテナ線が比較的軽量そうなので、普通のロープによる固定を試してみました。
本来ならば、碍子 + ステンレスワイヤーなどとすべきなのだと思います。そのため、最初は卵碍子を買ってみたのですが、ワイヤーよりも碍子のほうが重かったため、ロープで固定する方針へ舵を切りました。
ロープは、屋外で長期間放置することになるので、耐候性、耐紫外線性を重視しポリエステルロープを選びました。
固定方法ですが、強度を求めて、固結びなどではなく次のようにしました。詳しい結び方はリンク先を参照のこと。
二重八の字結びは、想像以上に恐ろしく固いです。
このロープによる固定方法は、手間がかからないこと、道具がロープだけで済むことといった利点もありますが、張力の調整がしづらいという大きな欠点があります(ターンバックルをどう設置するか)。
あと、340gの軽量ワイヤーですが、それでも結構撓みます。
作業
アンテナを張っていきます。
まず、ロープを二重八の字結びで固定していきます。 ついで、適当な長さに切断した後、ロープの端部を適宜処理します。 本当は熱収縮チューブや、打ったものを結び直すのが良いのでしょうが、ここでは瞬間接着剤アロンアルファで固定しました。怪しげな煙が立つので吸い込まないようにします。
次に、反対側にあやつなぎでアンテナ線を固定します。アンテナ線には、10cm程度に切った針金を一緒に絡ませ、結び終わったあとに通したアンテナ線に巻きつけて、アンテナ線をさらに固定します。 最後に上から、自己融着テープを巻きつけて保護します。
出来上がると以下のようになります。これを、両端部とマスト部分の4箇所で行いました。
マスト部分では脚立を掛けて作業をしました。地上10mほどの高さなので緊張します(そもそも高所恐怖症です)。 念の為、腰に紐を巻き付け支柱に二重八の字結びで固定し、セルフビレイ(失笑)をしましたが、本来は、間違いなくフルハーネス型の安全帯などを装備するべきです…。
かなり高く、怖気づいたのでクロスマウントの設置は諦め、インシュレーターの上側にロープを結びつけました。
結局、作業に3時間位かかりました。思ったよりも時間を費やしてしまいました。
結果
インピーダンス
その前に、インピーダンスをnanoVNAで計測してみました。結果は下表です。
BNC ⇔ みの虫クリップのケーブルを使っているため、補正をしているとはいえ、あまりあてにはならないと思いますが…。
周波数 f | Re(Z) | Im(Z) |
---|---|---|
50.0kHz | 約10kΩ(不安定) | 約100pF |
206.0kHz | 約3.7kΩ | 約60pF |
498.5kHz | 約1.75kΩ | 約54pF |
1005.5kHz | 約1.3kΩ | 約47pF |
1512.5kHz | 約910Ω | 約50pF |
1980.5kHz | 約810Ω | 約59pF |
これより高い周波数では、なだらかにRe(Z)が減少していきます。
ロングワイヤーアンテナのインピーダンスは、一般に1kΩ程度と言われています。 この数値の根拠は見つけられておらず、個人的には懐疑的だったのですが、測定結果はこれを支持するものになりました。
どちらにせよ、特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルとはかなりの不整合となるため、アンアン(この場合は不平衡ー不平衡のためバランではない)が必要そうです。
受信
次に、お待ちかねの受信です。
※ここでは、インピーダンス整合などは取り敢えず無視して、AirSpy HF+ Discovery ⇔ SMA-BNC変換コネクタ ⇔ BNC-みの虫クリップケーブル ⇔ 赤側に直接アンテナワイヤーの端を挟む、としました。
東京マーチス
まず、良かった方から。 今までベランダでは受信できなかった東京マーチスですが、夜は聞き取れる程度には受信できるようになりました。これは大きな進展です。
ただし、これがひとえにロングワイヤーアンテナの性能ゆえなのか(あまりそうではないと思う)、比較的周囲に開けた屋上までワイヤーを伸ばしたからなのかは、判別が難しいです。
長波帯
一方、もう一つ期待していた長波帯の結果は残念なものに終わりました。全体的にノイズが乗っており、そのせいなのか分かりませんが、D-303だと問題なく受信できる比較的強い信号(新立川NDB)が入ってきません(流石にNAVTEXは問題なかった)。
このノイズ源ですが、犯人は恐らく、ベランダに設置されたエアコンの室外機です。ただ、これを防ぐ方策が思いつけていません(ワイヤーのレイアウトなどを変える、そもそもアースする、連絡して対策してもらう、とか?)。
短縮コイルの使用や、後述のインピーダンス非整合の解消で少しは良くなるでしょうか(アンテナが信号と室外機のノイズを区別できず、アンテナの近くに室外機がある以上、良くならない気がする)。長波帯は引き続き試行錯誤が必要そうです。
おまけ(短波帯)
主観的ですが、よく入ります。7MHz帯では夥しい数のCWが見えました(日曜夜という、時間帯に依るところも大きそうですが)。10MHz付近ではFAXが2つあるのを見つけました。なんだろう、これ。中国とかの気象情報だろうか。
東京ボルメット放送などで確かめたほうが比較しやすそう。
今後
大きく4つ、改善点があると思っています。
- 端を塩ビパイプ等でもっと高くする
- 室外機から遠ざける
- アースの接続
- ununを介す
4点目ですが、一般に、ロングワイヤーアンテナはインピーダンスが比較的高いとされます(しかし、その通説が流れているだけで、あまり技術的な説明は見たことがありません)。 そのため、特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルとの接続点において、インピーダンスの非整合が生じてしまいます。 これを解消するために、例えばインピーダンス比1:9のunun(バランではない。unbalanced-to-unbalancedなので)を設置し、非整合さを軽減させようとする例をよく見かけます(もうハイ・インピーダンスの増幅器で受けたほうが良いんじゃないか)。 私も、次にこれを試してみることにします(取り敢えずフェライトコアを注文しました)。
参考
- ham radio series アンテナ編 ワイヤーアンテナ, 片岡 基, 飯島 進, 他, CQ出版社, 2016(オンデマンド版)
- ロープの結び方 もくじ 色々なロープの結び方が紹介されていて、写真もわかりやすいです
*1:長さが人や状況によってまちまちなのでrandomなんでしょうか