働きたくない

5000兆円欲しい

ロングワイヤーアンテナを設置した

アンテナは一日にしてならず。今回はタイトルの通りです。

(この記事ではアンテナを張るまでを扱っています。バランの設置などは書いていません)

アンテナ線を伸ばして張るだけ…本当に張るだけなんですが、なぜか最初から最後まで2週間位かかりました(構想からだと一ヶ月くらい)。はあ…。

目次

動機

よく受信機の製作といった雑誌記事で、「アンテナ線には数mのワイヤーを接続し…」とあり、ロングワイヤーアンテナは簡易な分、性能はあまり良くないのではないかという(とても非科学的な)先入観がありました。しかし、以下に示した、NDBや(旧)灯台放送をロングワイヤーアンテナで受信した話に触発され、本格的な(長い)ロングワイヤーアンテナ(英語ではRandom wire antennaとも言うみたいです*1)を設置してみました。

灯台放送受信用プリセレクターの製作

www.youtube.com

準備

設置場所の検討

最初に、まずどこに張るか検討しました。

そもそも、本来は波長に合わせて張るべきですが、そのような広大な土地は持ち合わせていません。仕方がないので、可能な限り長く張ることを考えました。結果、下図のようになりました。

以下概説です。隣の建物の屋上の端から、こちらの建物のベランダまで張っています。長さは総延長37mで、そこそこ長い方かと思います。途中、屋上の地デジ用UHFアンテナのマストにロープを固定し、方向を変えるとともに、荷重の分散を図ります。

端部は、塩ビパイプをどこかに固定し、その先端にロープを固定することで高さを稼ぐ方法も考えましたが、それは感度不足で困った時の案として取っておき、取り敢えずは対応しない(まず完成を目指す)ことにしました。

また、電線を買う時のために、事前に必要な長さを測っておきます。ここに結構時間を費やしてしまいました。というのも、私は、長いメジャーやレーザー測距計を持ち合わせていなかったため、まず測る方法から考えないといけなかったためです。結局、紙紐に1mごとにセロハンテープで印をつけたものを作り、それを張って測るという原始的な方法を取りました。Done is better than perfect...

部品の購入

次に、必要な部品を買い揃えました。

部品名 メーカー・型番 個数 値段(税抜) 購入場所 備考
アンテナワイヤー 【ドイツ製】超軽量アンテナ線 42m @3,780(税込) ウエダ無線 「42m エレメント径:約2mm(0.2mm x 15本撚線) 重量:約340g ハトメ 圧着端子付」。詳細は後述
ポリエステルロープ ユタカメイク A508 10m @249 MonotaRO 3ッ打 3mm×10m
自己融着テープ スコッチ UT-19 1 @319 MonotaRO
針金 - 少々 - - 自宅にあったものを使用

買ったが使わなかったもの:

部品名 メーカー・型番 個数 値段(税抜) 購入場所 備考
クロスマウント DXアンテナ PT02B 1 @1,970(税込) ヨドバシカメラ 当初、これをマストに固定し、Uボルトにロープを結びつける計画でした。しかし、サブ側にも何か挟まないと駄目なようでした

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届いたアンテナ線です

アンテナ線

まず、要のパーツとしてアンテナ線が必要です。 電線なら何でもいい気がしますが…一応世の中には、アンテナ線向けの電線というものが存在するみたいです。 いまいち差が分かりませんが、耐候性と、張力への対応(比較的長い距離、自重を自身で支えるため)が特徴なんでしょうか。 価格差が6,000円もあったので、流石に後者を選びました。

2種しか見つけられていませんが、海外に目を向ければもっとあるのかもしれません。

ラインナップはどちらも約22mと約42mです。

ワイヤー固定用のロープ

次に、アンテナワイヤーの固定方法についてです。今回は、上記のアンテナ線が比較的軽量そうなので、普通のロープによる固定を試してみました。

本来ならば、碍子 + ステンレスワイヤーなどとすべきなのだと思います。そのため、最初は卵碍子を買ってみたのですが、ワイヤーよりも碍子のほうが重かったため、ロープで固定する方針へ舵を切りました。

ロープは、屋外で長期間放置することになるので、耐候性、耐紫外線性を重視しポリエステルロープを選びました。

固定方法ですが、強度を求めて、固結びなどではなく次のようにしました。詳しい結び方はリンク先を参照のこと。

  • 固定先への巻きつけ → 二重八の字結び
  • アンテナ線の固定 → 針金を巻き込みあやつなぎ。その後アンテナ線に針金を巻きつけ、上から自己融着テープを巻きつけ固定

二重八の字結びは、想像以上に恐ろしく固いです。

このロープによる固定方法は、手間がかからないこと、道具がロープだけで済むことといった利点もありますが、張力の調整がしづらいという大きな欠点があります(ターンバックルをどう設置するか)。

あと、340gの軽量ワイヤーですが、それでも結構撓みます。

作業

アンテナを張っていきます。

まず、ロープを二重八の字結びで固定していきます。 ついで、適当な長さに切断した後、ロープの端部を適宜処理します。 本当は熱収縮チューブや、打ったものを結び直すのが良いのでしょうが、ここでは瞬間接着剤アロンアルファで固定しました。怪しげな煙が立つので吸い込まないようにします。

次に、反対側にあやつなぎでアンテナ線を固定します。アンテナ線には、10cm程度に切った針金を一緒に絡ませ、結び終わったあとに通したアンテナ線に巻きつけて、アンテナ線をさらに固定します。 最後に上から、自己融着テープを巻きつけて保護します。

出来上がると以下のようになります。これを、両端部とマスト部分の4箇所で行いました。

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ロープでのアンテナワイヤーの固定。(左・右)マスト固定部。ロープとの固定時には針金も併用。上からブチルゴムテープを巻きつけ保護。

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ロープでのロングワイヤーアンテナの固定(最端部2箇所)

マスト部分では脚立を掛けて作業をしました。地上10mほどの高さなので緊張します(そもそも高所恐怖症です)。 念の為、腰に紐を巻き付け支柱に二重八の字結びで固定し、セルフビレイ(失笑)をしましたが、本来は、間違いなくフルハーネス型の安全帯などを装備するべきです…。

かなり高く、怖気づいたのでクロスマウントの設置は諦め、インシュレーターの上側にロープを結びつけました。

結局、作業に3時間位かかりました。思ったよりも時間を費やしてしまいました。

結果

インピーダンス

その前に、インピーダンスをnanoVNAで計測してみました。結果は下表です。

BNC ⇔ みの虫クリップのケーブルを使っているため、補正をしているとはいえ、あまりあてにはならないと思いますが…。

周波数 f Re(Z) Im(Z)
50.0kHz 約10kΩ(不安定) 約100pF
206.0kHz 約3.7kΩ 約60pF
498.5kHz 約1.75kΩ 約54pF
1005.5kHz 約1.3kΩ 約47pF
1512.5kHz 約910Ω 約50pF
1980.5kHz 約810Ω 約59pF

これより高い周波数では、なだらかにRe(Z)が減少していきます。

ロングワイヤーアンテナのインピーダンスは、一般に1kΩ程度と言われています。 この数値の根拠は見つけられておらず、個人的には懐疑的だったのですが、測定結果はこれを支持するものになりました。

どちらにせよ、特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルとはかなりの不整合となるため、アンアン(この場合は不平衡ー不平衡のためバランではない)が必要そうです。

受信

次に、お待ちかねの受信です。

※ここでは、インピーダンス整合などは取り敢えず無視して、AirSpy HF+ Discovery ⇔ SMA-BNC変換コネクタ ⇔ BNC-みの虫クリップケーブル ⇔ 赤側に直接アンテナワイヤーの端を挟む、としました。

東京マーチス

まず、良かった方から。 今までベランダでは受信できなかった東京マーチスですが、夜は聞き取れる程度には受信できるようになりました。これは大きな進展です。

ただし、これがひとえにロングワイヤーアンテナの性能ゆえなのか(あまりそうではないと思う)、比較的周囲に開けた屋上までワイヤーを伸ばしたからなのかは、判別が難しいです。

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東京マーチス。ノイズフロア + 20dBくらいか

長波帯

一方、もう一つ期待していた長波帯の結果は残念なものに終わりました。全体的にノイズが乗っており、そのせいなのか分かりませんが、D-303だと問題なく受信できる比較的強い信号(新立川NDB)が入ってきません(流石にNAVTEXは問題なかった)。

このノイズ源ですが、犯人は恐らく、ベランダに設置されたエアコンの室外機です。ただ、これを防ぐ方策が思いつけていません(ワイヤーのレイアウトなどを変える、そもそもアースする、連絡して対策してもらう、とか?)。

短縮コイルの使用や、後述のインピーダンス非整合の解消で少しは良くなるでしょうか(アンテナが信号と室外機のノイズを区別できず、アンテナの近くに室外機がある以上、良くならない気がする)。長波帯は引き続き試行錯誤が必要そうです。

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長波帯。全体的にノイズが乗っている。400kHzより上にある信号は424kHzのNAVTEXでしょうか。0:42のスクリーンショットなので、日本ではない気がしますが…。埼玉の菖蒲(久喜)から300kWで送られるNHK第1に引けを取らない強さです

おまけ(短波帯)

主観的ですが、よく入ります。7MHz帯では夥しい数のCWが見えました(日曜夜という、時間帯に依るところも大きそうですが)。10MHz付近ではFAXが2つあるのを見つけました。なんだろう、これ。中国とかの気象情報だろうか。

東京ボルメット放送などで確かめたほうが比較しやすそう。

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7MHz帯

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10MHz付近

今後

大きく4つ、改善点があると思っています。

  • 端を塩ビパイプ等でもっと高くする
  • 室外機から遠ざける
  • アースの接続
  • ununを介す

4点目ですが、一般に、ロングワイヤーアンテナはインピーダンスが比較的高いとされます(しかし、その通説が流れているだけで、あまり技術的な説明は見たことがありません)。 そのため、特性インピーダンスが50Ωの同軸ケーブルとの接続点において、インピーダンスの非整合が生じてしまいます。 これを解消するために、例えばインピーダンス比1:9のunun(バランではない。unbalanced-to-unbalancedなので)を設置し、非整合さを軽減させようとする例をよく見かけます(もうハイ・インピーダンス増幅器で受けたほうが良いんじゃないか)。 私も、次にこれを試してみることにします(取り敢えずフェライトコアを注文しました)。

参考

  • ham radio series アンテナ編 ワイヤーアンテナ, 片岡 基, 飯島 進, 他, CQ出版社, 2016(オンデマンド版)
  • ロープの結び方 もくじ 色々なロープの結び方が紹介されていて、写真もわかりやすいです

*1:長さが人や状況によってまちまちなのでrandomなんでしょうか